纏を考える 考察編1

考察:擬宝珠家投入の理由

こち亀は40年も続いたので、読者の年齢層も幅広いし
コミックスで言うとどの辺りが最高!という話になると
だいたい一致を見ません。こち亀は100巻まで、
いや80巻代まで、70巻代まで、60巻代まで、50巻代まで
人によっては最初期以外認めねえ!なんてな人まで…

ただ超神田寿司登場からダメになった、大阪が出て来てから
ダメになったと言う意見は割と多く聞かれる気がします。
纏も檸檬も夏春都も、大阪の春も好きな私はちょっとガッカリ…

は、別にしません。
なぜなら超神田寿司、擬宝珠家の登場はこち亀という物語が
これまでと別方向に変化するきっかけだったからです。
擬宝珠家の登場は物語全体と両さんの双方に大きな変化を
もたらしました。

その変化とは言うまでもなく「両さんに家庭を持たせる」
という試みです。両さんに奥さんや子供がいたら
一体どうなるだろう? 秋本先生はそう考えられたのでしょう。

そして纏と擬宝珠家はそのために必要な要素を慎重に組み合わせて
出来ている事がわかります。

 Wikipediaによると当初檸檬は麗子の従妹の設定で、見た目は
現在の檸檬のまま麗子と同じ金髪だったといいます。
 これから考えるに、当初は麗子と疑似家族になる予定だったのでは
ないでしょうか? 麗子は両さんと最も付き合いの長い女性キャラですし
両さんと結婚すべきという声は強いです。
しかし実際には一部で評判が良くない寿司屋が生み出されました。
超神田寿司の擬宝珠家が生み出しされたのはなぜなのでしょう?
両さんの疑似家族として纏が選ばれたのはどうしてでしょう?

答えはまさに、こち亀の連載が長く続いてしまったことに
あるのではないでしょうか。
つまり設定にがんじがらめにされてしまったからでは。

ギャグマンガの仕様上、ある程度の矛盾やつじつまは
無かったことにできるでしょう。しかし何度も繰り返された
麗子のセレブで浮世離れした生活や金銭感覚、中川もそうですが
両さんとは、知性や教養・育った環境など全てにおいて
対局にあると言う設定を何度も繰り返して来たことで
自由度までもが大幅に狭められてしまったのではないでしょうか。

いざ結婚話が持ち上がった際も

  1. まず結婚する
  2. そして名義を全てわしの物にする
  3. 離婚して財産を半分いただく

こんな事を言っていた手前、いまさら一緒に暮らしたり
従妹をはさんで家族の様に振る舞ったりできなくなって
しまったのでは?

両さんに家族を

超神田寿司出現以前の両さんのままですと、結婚後の生活に
不安が残ります。大酒飲んで、給料を速攻で失い、ギャンブル好きで
片付けられない汚部屋、風呂にも入らず洗濯もしない。
キャラクターとしては最高ですが、このまま結婚しても妻子に
出ていかれる結果しか見えません。そういうギスギスした家庭が
書きたいと言うなら別に良いのですが、こち亀は闇金ウシジマくんでは
無いわけで…

 おそらく秋本先生が書きたかったのは、ドタバタする事はあっても
温かくて優しい家庭人の両さんだったはずです。

 そのためには奥さんが両さんの自堕落な生活態度を
矯正するだけのパワーを持っていないといけなくなります。

そうして登場した纏。
両さんと同じ江戸っ子で負けず嫌い。しかも登場当初は両さんの
完全上位互換の気配までありました。
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下町、人情、情緒、昔の遊び、両さんの持ち味をことごとく消し去る
強烈なパワーを持ったキャラです。
先にも書きましたが、このままのキャラだったらこち亀が崩壊する
可能性もあり、かなりヤバかったと思います。
こういった事が原因で寿司屋が嫌いと言う人もいるのかも。

 当初は両さんが一方的にやり込められていましたが、
しだいにお互い言い争う負けず嫌いな二人になり、後期は
纏が両さんにやり込められる場面も増えて来ます。

 しかし纏以上に両さんの生活を矯正させたのは
夏春都と檸檬の存在が大きいです。
夏春都は単純におっかない、余計な物は冗談抜きで
捨てられると両さんはぼやいていましたし、檸檬は
両さんにぐうの音も言わせぬ相手です
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部長から言われても生返事だったりする両さんも檸檬に
言われるのは心底堪えるみたいです。
しかしのじゃ口調の幼稚園児に両さんが言いくるめられて
矯正されるとは、古くからのファンにとって面白くない
のもまた事実…。

 ただ擬宝珠家は本当に物をあまり持たない事実があり、
両さんは反論できない環境だったりします。
写真なども残しません。全ては記憶にあるという夏春都の
言葉も印象的です。

そしてそんな夏春都だからこそ手放せなかった喜一郎さん
形見の時計の重さが増して来るのです。

 寿司職人になった事で生活サイクルも大幅に変化します。
寿司屋にいる時は4時に起床して河岸へ出かけ仕入れをし
その後は二度寝するなり何なりして、擬宝珠家と一緒に
朝食を摂り、纏と一緒に警察署へ。纏は交通課なので
署に残り、両さんは派出所へ向かうという具合。

遅刻上等の両さんですが、こうなると遅刻しようが
ありません。まあ署から派出所に来るまでに何か起きれば
遅刻ですが。

 143巻では出勤の風景が丁寧に描かれています。
秋本先生が書いてみたかったシーンとの事です。

 加えて両さんの病的な金欲に変化を起こさせる要素が
擬宝珠家にはありました。擬宝珠家自体は老舗高級寿司店を営み
東京の一等地に住居兼店舗を構え、江戸時代から続く関係で古くからの
資産なども見受けられるいわゆる金持ちです。
しかし世間一般で言ういわゆる富豪・セレブというより、
老舗・伝統・格式といった要素が色濃く、いわゆる金持ちを
感じさせる話題はあまり出て来ません
(例えば船を持ってるとか、別荘があるとか、プライベートジェットを
所有しているとかそう言う類いです)。お金持ちっぽいのは感じがするのは
檸檬の送迎に使っているジャガー(ジャグワー)くらいでしょうか。
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(159巻)
言われるまで両さんも纏たちが金持ちだという事を忘れているくらいの
生活をしているという事です。

実際のところ中川と麗子、この二人が天文学的なセレブなだけで、
この二人に比べれば擬宝珠家など微々たるレベルの金持ちに過ぎません。
世界的に活動している中川たちに比べ擬宝珠家は数店舗の超神田寿司を
経営しているにすぎませんからね(そもそも超神田寿司の規模は不明。
支店云々言っているので両さんの働いている店以外に店舗があるようですが。
ちなみにタイ旅行の際には社員30名と言っています)。

資産目当てなら父母の資産も合わせれば兆単位の麗子は最有力になるでしょう。
京都の広大な邸宅に、大量の家臣(?)を抱えた大名の様な磯鷲家も有力な
候補のはず。

 が、両さんは京都で右京に出会い、彼女の純粋な優しさに惹かれます。
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右京と早矢の間で揺れ動く両さん。
ですが右京は両さんに異性としての興味は無い事が後に明らかに
なるので、これは完全に両さんが舞い上がった結果だったりしますが。

 そんな両さんは基本結婚と言えば財産目当てのような印象が強いです。
しかし、少年時代は純粋な好意で女の子と惹かれあう事が何度もありました。

超神田寿司に入り、最初に纏との結婚話が持ち上がった時には
「なんかいつも「嫁さん」より「財産」しか考えてない…
「財産」と結婚したがるわしって…どういう人間だ…」

と発言したりもしました。
これは大きな心境の変化です。この後も金目当てで失敗したりするのは
変わりませんが、少しずつ両さんに変化が生まれるのです。

 擬宝珠家に入っても玉の輿と言えるほどの資産がポンと両さんの
懐に入るような気配がなくなりますが、寿司職人として働けばそれに
見合った対価が払われるという事実もあります。
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普段は「お食事券」「仕立券」といった金券を渡し両さんに現金を
与えない夏春都。
しかし、400万円の価値のあるマグロを捕って来た際には
夏春都の方から対価を払うと言って来ます。シビアな面もありますが
支払うべき所を渋ったりはしないのです、

 これもあってか、従来山師的行動で一攫千金を狙うのが好きな
両さんが、寿司職人には真面目・真剣に取り組むようになります。
そうして職人としての技術や知識をどんどん身に付ける姿勢は
夏春都を何度も感心させています。

そして物語の根幹を揺るがすようなことを言い出すようになります。
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両さんと言えば警察官、という概念をぶち壊すような警官よりも
寿司職人の方が合っているという発言が…

さらに驚くのは
「商売やってもつい利益に走ってダメにしちゃう」

え!? 自覚あるの!?

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独立話が出た時は、儲けよりも自分の店が持てる!
と言うことに喜んでいます。それじゃ本当に
職人の夢じゃないですか…

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(145巻)
警官のボーナスは8万まで減少したのに、寿司屋のボーナスは
前借り含め300万に…
 しかも恒例の商店街とのボーナス争奪戦に対し、両さんは自ら
返済しようととしていたことも明らかに…600万の金を用意し
半分の300万で借金を完済、残りは超神田寿司の支店含めた
職人と飲みに出かけようとしていたと言うことがわかります。
これについても夏春都から
「金の使い方もいい」と言われてます。

 加えて檸檬の持っていた喜一郎さんゆかりの軍票などで
お金より大切な物…に付いて考えるようになっていくのです。

家族が家族である事

私は超神田寿司、擬宝珠家を登場させたその最大の理由は
家族が家族である必要があったためだと思っています。

擬宝珠家における両さんを「お父さん」と位置づけた場合、
纏は嫁、檸檬と蜜柑は娘、夏春都が母、夜婁紫喰さんと桔梗さんは…
え〜と…親戚かなんか? 檸檬・蜜柑の実父なのに夜婁紫喰さんの
影の薄さは気の毒になるレベルです。
それもこれも両さんが疑似父性を与えられたためなのですが…。
 作中でも「親でもないのに親バカ」と言われているので両さんは
父親でないのは確かなのですが。

両さんはフラッといなくならない寅さんって感じでしょうか。

どちらにせよ、両さんの擬似的家庭においては
下町でお店をやっている、しっかり者の奥さん的女性キャラ、
両さんの擬似的な子供候補、両さんを叱り・見守る
親的ポジションのキャラ、あたりが揃っている必要が
あったのでしょう。

そう言った点も踏まえて、擬宝珠家は作られているのです。
夏春都は親ポジションにするには両さんと仲が悪すぎね?
と思われる方、その夏春都はアニメの方であり、漫画版に
おいてそのキャラは実は登場初期だけだったりします。

登場初期こそ、なぎなたを振り回したり、奇抜なアイデアを
取り入れたりするなど最新技術にも関心がある
両津家の血を感じさせるパワフルな御仁である
反面、両津家の男を嫌っている節もありました。
 しかし、すぐにそれはなりを潜めて両さん、纏という
若い世代の言う伝統や発想、それらについて思案する
重厚な人物へと変わります。
アニメとはかなり印象が異なるのです。

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(134巻)
奇抜な形やアイデアで注目を引こうと提案する両さんに対し
デジタルギアなどにうとい纏は伝統が大事だと言います。
夏春都は出費度外視で二人の方向性をためします。

 この時点で両さんは自己の利益などと関係なく一人の
寿司職人として考え、発言しています。
 オチとして失敗はしたものの、最初の行動原理は
寿司屋としての挑戦だったという事にも注目です。

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(151巻)
恵方巻の回では、巻き寿司のブームを起こした両さん。
チョコやカスタードと言った具まで用意されている事に
驚く纏ですが、両さんは冷静に分析し説明しています。
この回も寿司に関する歴史や真剣な姿勢が見られます。

このように夏春都は両さんにとって時に厳しく、そして
表立ってはいない物の、両さんに常に期待と信頼を
向けている、擬似的な母親なのです。

そんな環境の中で両さんの親じゃないのに親バカ
優しさが随所に見られるようになって来ます。
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(146巻)
とっさの機転はお得意な両さん。かっこ良すぎる機転で
蜜柑を元気づけます。

旅行と言えば、わしがわしがと自分本位だっり、貧乏旅行
だったり、誰かにわしも連れて行け!な両さんが
家族サービス的に行動するのも擬宝珠家だからこそ。
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(127巻)
ハワイやタイ、冬のスキーに夏の海へ家族を招待しています。

擬宝珠家の誰一人海外旅行に行った事が無かったり
意外や意外花やしきに纏も檸檬も行った事が無かったりと
ご都合主義と言われそうな面もあるとは言え、色々な
所へ家族を連れて行き、そこの紹介をしたり一緒に
楽しんだりするのは両さんの新たな一面と言えるでしょう。

153巻では偶然とは言え閉館間際の交通博物館へ
行く事になる両さんたち。
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偶然に偶然は重なり、亡き喜一郎さんが交通博物館に
大きく関わっている事が明らかに。喜一郎さんの
姿が描写されたのはこの時だけというレアさです。


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